The Man Who Fell From The Wrong Side Of The Sky:2017年6月18日分

2017/6/18(Sun)

[映画] Clint Eastwood/Gran Torino

映画「 グラン・トリノ」を観た、イーストウッド監督作ってわりと苦手なんやけどこれはよい映画やね、未見だったの失敗でしたわ。

舞台はデトロイト、自動車産業が衰退し失業者とスラムしか残らない街(映画「8 Miles」と同じ舞台だ)。 アメリカが輝いていた'5〜60年代には美しかった街はすっかり荒れ果て、犯罪の増加で白人は逃げ出し住んでいるのは貧しい有色人種ばかり。 それでもまだその街に住み続ける白人の老夫婦、その奥さんの葬儀から物語ははじまる。

残された旦那は葬儀に集まった息子夫婦や孫も辟易するような頑固爺で、心を許す相手は飼い犬とガレージの愛車だけ。 爺さんが不機嫌な人生を生きているのは、朝鮮での戦争体験(ドラマ「Band Of Brothers」と同じE中隊つまり空挺部隊だ)と アメリカの誇りであるGM・フォード・クライスラーを破綻にまで追いやった日本車である。 なので東洋人は「グック(土人)」と呼んで憚らないし、トヨタ車をみれば唾さえ吐きかける。

妻は自分の死後は爺さんが教会を心の拠り所とするよう牧師に頼んでいたのだけど、爺さんはまだ牧師を若輩だと無下に扱ってろくに話もきかない。

爺さんの隣の家にはベトナム戦争で故国を追われた山岳部族(モン族)の一家が住んでいる、爺さんにとっては同じ東洋人で「グッグ」だ。 芝生とウッドデッキにチェア、そしてガレージというアメリカンな家の中で、東南アジアの生活が営まれている(このシーンは映画「クー嶺街少年殺人事件」で日本人の逃げた日本家屋に台湾人家族が住んでるシーンを思い出させる)。

このモン族の一家には気の弱い弟と勝気な姉がいる、弟はストリートギャングの従兄弟の命令に逆らえず車泥棒のパシリに使われたり姉も黒人のストリートギャングに絡まれたり、この街において弱者といえる存在だ(このあたりも「クー嶺街〜」で少年と少女が不良たちの抗争に巻き込まれずにはいられない環境なのと似ている)。

爺さんはいろいろあって弟と姉を2度にわたって助けることになる、まぁ爺さん的には気に入らん東洋人や黒人を撃退して自分の世界を守っただけ(家の前の芝刈りと同じ)なんだけど。

少し打ち解けた姉は爺さんを一家のパーティーに招待する、姉の説明によってそれまで自分が不可解で気味の悪いと思ってた東洋人の態度が文化の違いであることを知る。 モン族の占い師に気まぐれで占わせたところ自身の抱える問題を全て言い当てられ、妻の葬儀で集まった息子夫婦と孫(禿鷹のように妻の遺品の宝石を持ち去り、自分を施設に放り込もうとした)よりも親しみすら感じる自分に動揺する。 食事が進む中、この映画ではじめて爺さんに笑みがでるまでになる(ちょっとストーリーとして性急な感もあるけど、映画全体の尺としては丁度いいのか)。

別室では若者勢が集まってパーティーしている中、弟はお前らのように隅っこで絶賛ぼっちナウ、酒がすすんでメーター上がった爺さん(なんと米の酒まで飲みだした)が、なんでお前はナンパのひとつもできないのか俺は世界一の嫁を貰ったと自慢まではじめて草不可避。というかイーストウッドってこんなコミカルな演技できるんだなと驚いた(息子夫婦と老人ホームの件でやりあうシーンなんか伊丹か周防かなノリだし)。

そんなこんなで姉に押しつけられて弟は爺さんのとこで働くことになったんだけど、初日はめんどくさがってそこの木に止まってる鳥の数を数えてろとぞんざいに扱ったものの、どうせならと荒れ果てた近隣の家屋の修繕をやらせることにする(梯子で屋根に上らせて瓦を直しペンキを塗りそして瓦礫や朽木を片付けたり)。ここのシーンが本当にいい、男親の居なかったダメ弟を親代わりに一人前の男に育てるというありきたりな話はそれこそいくらでもあったけれども(パーカーの「初秋」とかね)、荒れ果てたデトロイトは若い世代の移民が自分の手で復興させていかないとならないというメッセージがあるし、アメリカのDIY精神を彼らに教えるということでもありそれは開拓精神にも繋がる歴史の継承でもあるよね。

そんで仕事の評判が広まって爺さんところに仕事を依頼してくる人も現れる、英語の話せない移民の老人が通訳として孫を連れてくるあたりも移民もやがてはアメリカ人になるという世代交代を表している。

ようやく弟はガレージへの出入りを許されるようになり、爺さんが50年かけて揃えた工具の使い方を教わり愛車グラン・トリノの洗車を仰せつかる。

ここからの結末はなかなかハードでわりと胸糞悪くなる人もいると思う、最後の最後でイーストウッドの悪癖というか病気が出てしまったかねぇ急にテーマがブレた感があってちょっと残念。 いい感じで移民の子がこれからのアメリカを背負って立つ男になる過程を丁寧に描いてたんだけど、従軍経験と罪の意識の話がメインになって終わった感。 まぁでもアメリカそれもデトロイトの現実からするとこれでも童話なのかもしれない(リアルゴッサムシティ)。

さて日本の20年後はどうなんですかね(どうせ生きてないからどうでもいい)

まぁ気になる人はDVD買うなりアマゾンプライムで観るなりしてください。