The Man Who Fell From The Wrong Side Of The Sky:2017年3月12日分

2017/3/12(Sun)

[音楽] Where Are We Now?/David Bowie (その2)

前回の続き、今回はちょっと「Where Are We Now?」の歌詞の解釈から離れて、アルバム「 The Next Day(2013)」の特異性について書いてみます。

このアルバムは10年ぶりのリリースでしたが、完成度の高さからなんと30年ぶり(!)にチャートのトップへと帰還します。 心臓発作による死亡説まで流れもはや過去の人扱いだったボウイですが、ところがどっこい現役バリバリだったわけです。

まずアルバムジャケットからして過去作品の「 "Heroes"」のパロディであることは自明です。

David Bowie - The Next Day.png
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The album cover features a black and white photograph of Bowie's face with his hands held up
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@ 「Beauty And The Beast」→ 「The Next Day」?

そして表題曲である「The Next Day」も同アルバムの1曲目「Beauty And The Beast」と曲調がそっくりです。 曲のテンポもBPM 122で完全一致しますのでこれは意図的なものでしょう。

まるで10年ぶりの復活を宣言するかのように高らかに「俺はここにいる、そう簡単には死なないぞ」とサビで歌い上げるのですが、なぜかそれに続く歌詞は ビリー・ホリディ「奇妙な果実」を思わせる木の枝で絞首刑に処せられる男の話になります。

首吊りイメージというと日本では発売になってないのですが「 I'm Afraid Of Americans(1997)」のジャケットになった自筆イラストを思い起こさせます。

Bowie I'mAfraidofAmericans.jpg
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だいたいボウイが自分自身の作品をセルフパロディするのは 過去記事にも書いたのですが「トム大佐は臆病者のジャンキー」と言い放った時のようにわりと煮詰まってるか精神的にヤバい時です。

しかし90年代に入ってからは芸人の持ちネタ安売りのように頻繁にやっており

  • Hallo Spaceboy … アルバム「1.Outside(1995)」収録、Spaceboy(Space Bowie)つまりSpace Oddityのトム大佐=ボウイの再登場
  • Little Wonder … アルバム「Earthling(1997)」収録、PVにジギーの「クローン」が登場
  • I Took A Trip On A Gemini Spaceship … アルバム「Heathen(2002)」収録、ま た ト ム 大 佐 か
  • New Killer Star … アルバム「Reality(2003)」収録、PVにまたトム大佐らしき宇宙飛行士が...
  • Never Get Old … 同上、タイアップしたヴィッテル (ミネラルウォーター)のCMにボウイの創造したキャラクターが全員集合

とわりと食傷気味な事もあってあまり注目されることはなかったかと思います。しかしここまで気合入ってセルフパロディをやった/やらなければならなかった理由が何かあるはずです。

ちなみにちょうど天王洲アイルの寺田倉庫 *1でやってる「David Bowie Is〜デヴィッド・ボウイ大回顧展」に足を運ばれた方なら目にされたかと思いますが、他の過去作品である 「 Pin Ups(1973)」や「 Diamond Dog(1974)」のアートワークによるジャケット試作案が複数存在します。

つまり「The Next Day」というアルバムは最初からセルフパロディが目的だったわけです。 後日発売されたアルバムから漏れた曲を収録した「 The Next Day Extra」には「Atomica」というグラムロック調の曲があります。

もしアルバムジャケットが「"Heroes"」でなく「Diamond Dog」のパロディに決まっていたら、こっちが1曲目になっていたかもしれません。

@ 「Rock 'n' Roll Suicide + Five Years」→「You Feel So Lonely You Could Die」?

さらにアルバム最後から2曲目「You Feel So Lonely You Could Die」はさらに問題作です。

この曲はボウイの代表作である「 The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars(1972)」の最後を飾る「Rock 'n' Roll Suicide(ロックンロールの自殺者)」とよく似た6/8拍子の曲です。

そして曲のエンディングのドラムは同アルバムのオープニングを飾った「Five Years」とほぼ同じです。

つまりこの曲はアルバム「Ziggy Stardust」をそのまんま裏返しにした構造になっているという事です。

また歌詞もヤバいです(語彙力)、パロディ元の「ロックンロールの自殺者」では

いいや違う、愛する人よ
君は決して独りなんかじゃない
君が誰であるかとか、そしてどんな人間なのかなんて大したことじゃない
君が何時何処にいて何を目にしたかも
それら全てがナイフみたいに頭の中を切り刻むんだろ?
僕もかつてはそんな苦しみを感じていた、僕は君の痛みの助けになれる
君は独りじゃないんだ

僕と一緒に目を覚まそう、君は独りじゃないんだ
さあ手を差し伸べてくれ、君は素晴らしい

と歌い、この曲を聴いて自傷を思いとどまった人間がどれだけ世界に存在するかというとギネスブック級なんじゃないですかね(まぁ数えられませんが) *2

ところが「You Feel So Lonely〜」では

「壁」に君が追い詰められてからというものの
友よ、君は塞ぎこんで憂鬱になったよね
そして人々は君のこと嫌うようになった
でも君はそのことに決着をつけようともせず、ただ静かにその場から姿を消してしまった

君は忘れていたいんだろう?
そして独りで死んでしまえばいいだけだと思ってるんだろう?

僕は君が孤独を感じそのまま死んでくれと願うよ
君は死ねたのに
君は死ねたのに

と正反対です、なおあまりのショックにそこいらの和訳サイトでは「君の為なら死ねる」的な誤訳する人間が続出して草不可避。

そして歌詞には「壁」が登場します、「Where Are We Now?」の歌詞を踏まえると「ベルリンの壁」が関係しそうです。

@ Nothing Has Changed

若干余談になりますが、この「裏返し」というコンセプトは、翌年に発表されたベスト盤「 Nothing Has Changed(2014)」にも受け継がれます。

ふつうベスト盤っていうとデビューから最新作までを時系列的に並べる編集が多く、ボウイ自身がこれまで発表したベスト盤も例外なくそうでした。 ところがこのアルバムだけは発表の時系列を逆に辿っているんですよな。

発表当初はシングルカットされた新曲「Sue (Or in a Season of Crime)」を1曲目にしたかったのと、時系列的に並べると これまでベスト盤に入ることの無かったいわば黒歴史扱いのデラム・レコード時代の数曲が浮いてしまうという理由だと思ったのですが *3どうもそれだけではないのかなと。

過去記事で「No Plan」はボウイの最後の曲を実質的なデビュー曲である「Space Oddity」と繋げループさせる構造だと書きましたが、「The Next Day」と「Nothing Has Changed」いうアルバムは、ループよりむしろ「過去に引き摺り戻す」「スタート地点に引き返す」という構造になっているといえます。

「Nothing Has Changed」というタイトルについて、ボウイの代表曲である「Changes」で宣言した「自分自身のスタイルを変え続ける」という歌詞とあわせ 「変化し続けたデヴィッド・ボウイ、でも全部デヴィッド・ボウイという一人の男だったんだぜ」と解釈したのですが、もう一つ意味があったわけです。

そう「何も変わらなかった(変えられなかった)」という無力感と後悔の念です。

@ 次回

「You Feel So Lonely〜」で再び登場した「壁」、そして1987年のグラススパイダーツアーでベルリンの壁の前で"Heroes"を演奏してからの ドイツの激動の歴史と、その間のボウイのキャリアについて書きます。

*1:ビットアイル?知らないなぁ(記憶喪失)
*2:ボウイ展の最後の疑似ライブスペースでこの曲流れた時、泣いてるオッサンオバサン大勢いましたね...
*3:実際にBBCセッション集である「Bowie At The Beeb」のディスク1がそんな感じで浮きまくってましたね...