2017/01/10(Tue)
○[音楽] No Plan/David Bowie
一周忌生誕70周年に合わせてPVが公開されたので、ざっくり訳してみた
そこは音楽は鳴らないであろう場所 僕はずっと音の洪水の中で迷子だった ようやく辿り着く先はどこでもない場所なのだろうか? よくわからない 僕がこれから行くであろう場所は どんなところであっても そこが僕の辿り着く場所 僕の人生だった全てのもの 僕の欲望 僕の信念 僕の気まぐれ それらがどうなるか判らないけど、そこが僕の新しい居住地 そこからはもうマンハッタンの二番街は見えやしない そこにはもう車も人通りもない? よくわからない 僕の人生だった全てのもの 僕の気まぐれ 僕の信念 僕の欲望 また独りきりになるけど もう思い残すことは何もない 行きたくもない場所だけど でも僕はそこに行かなければならない 心の準備はもう少しかかりそうだけど
PVは「ニュートン電機店」にうず高く積まれた沢山の「ブラウン管TV」ということで、映画「地球に落ちて来た男」へのオマージュです。 主人公トーマス・ジェローム・ニュートンが地球人の風習を学習する為に何十台ものテレビを積み重ねて視聴してたシーンですな。
またテレビとラジオの違いはありますが、通りすがりの人間をテレビ/ラジオから音楽で足を止めさせるその耳と目を奪うというストーリーは 最も有名なボウイの生み出したキャラクター、ジギー・スターダストの唄う「Starman」の歌詞をも連想させます。
デヴィッド・ボウイ自身の宗教観については、ジャパニーズ禅だーチベット仏教だーインドネシア仏教だーいろいろ取り沙汰されてますが、結局この歌では死後の世界なんて
ぜんぜんわからない、俺はノープランで死の準備をしている *1
とある意味あっけらかんとしていて、彼がいわゆる キューブラー・ロスによる死の受容プロセスの最終段階にある事が読み取れます。
またこの曲は舞台「Lazarus」においては宇宙飛行士のポートレイトを前に唄われているようです。
彼の初ヒット曲「Space Oddity」の登場人物であるトム大佐、歌詞の中で全く触れられることのなかった彼のロケット打ち上げ時の心境とダブらせているのかもしれません。
トム大佐のモデルは マーキュリー・セブンなどのアメリカ宇宙飛行士や、映画「 2001年宇宙の旅」に登場した HAL の反乱により宇宙を彷徨うことになるフランク・プール博士のイメージですが、それが映画「 地球に落ちて来た男」を演じたことでトム大佐=トーマス・ジェローム・ニュートンと同化したのでしょう。偶然ではありますがトムはトーマスの愛称でうまく一致します(劇中はトミー呼びですが)。
トム大佐が地上の妻に心を残しつつも宇宙飛行に飛び出した背景が、アポロ計画のような宇宙探査ではなく水資源の枯渇し荒廃した惑星アンシアから水を求めて「地球に落ちて来た男」に変わったわけです。
そしてトム大佐が再び歌詞に現れるのは「Aches To Aches」です
灰から灰へ、臆病者は臆病者に トム大佐は今ではすっかりジャンキーに 天国でハイになってグッダグダ 史上最低を記録しました
トム大佐がジャンキーになったという歌詞は
- いつまでも昔のヒット曲の演奏を求められ嫌気が差したこと
- ボウイ自身が長らく麻薬中毒に苦しんでた事実
以上の事から生まれた歌詞と長らく解釈されていましたが、これもまた「トム大佐=トーマス・ジェローム・ニュートン」と考えれば映画のストーリーそのままなんですよな。
ボウイは自分の死出の旅を、トム大佐のロケット打上げと宇宙遊泳にになぞらえたのではないでしょうか、これは「Blackstar」の歌詞からも読みとれます。
大変に難解な歌詞なのですが「邸宅には大きな蝋燭が一本立っている、そして処刑の日を待つ」的な歌詞が歌われます。 これはグリム童話の「死神の住む地獄の洞穴にある命の蝋燭、それが燃え尽きる日」のイメージをまず想像させますが、それ以外にも蝋燭には意味があるのではないかと。
先ほど軽く触れたマーキュリー・セブンのうちのひとり、 アラン・シェパードは彼の初打ち上げが何度も中断しそうになった時
Let's Light This Candle = さっさとこの蝋燭に火を付けろ(ロケットを打ち上げろ)
と激を飛ばしました。
つまりは「Blackstar」に登場する大きな蝋燭は
- 命の蝋燭
- 死出の旅のロケット
とのダブルミーニングなのでしょう。
「No Plan」のPVでは最後の歌詞「心の準備はもう少しかかりそうだけど」の後、ボウイの姿と共にロケットが空高く飛んでいく映像が流れます。 ロケットで宇宙への旅(=死出の旅)に出たのはトム大佐でありニュートンでありジギーであり、そしてデヴィッド・ボウイ本人なわけです。
「Changes」の歌詞のように演ずるキャラクターをどんどん新しく生み出してったかと思いきや、死の直前に全部のキャラクターを結び付けてお前が観てたのは デヴィッド・ボウイ本人だったんだよと、とんでもない伏線回収をして去ってったわけです。 まさしくベスト盤のタイトル通り「Nothing Has Changed(何も変わっていない)」。
そしてまた最後の曲を実質デビュー曲である「Space Oddity」と繋げたことで、ここにデヴィッド・ボウイという偉大なる無限ループが完成したわけ。
後は TO BE PLAYED AT MAXIMUM VOLUME(最大音量で聴け) ということでございます。