The Man Who Fell From The Wrong Side Of The Sky:2016年1月26日分

2016/1/26(Tue)

[音楽] デヴィッド・ボウイの 'Heroes' をトラック毎に分析する

Breaking down David Bowie's 'Heroes' - Track-by-trackより。

デヴィッド・ボウイの名曲 'Heroes' を長年プロデューサーを務めたトニー・ヴィスコンティが直々に、どのように録音したのか マルチトラックを操作しながら解説した動画が上がってますな。

聴き取り辛い(自分的に)部分もあったので不完全ですが、翻訳したのを何回かに分けて上げてみる。 アメリカ人にしては私でもある程度聴きとれる英語なのはイギリス人との仕事が多かったからですかねぇ。

@ マスターテープについて

私の手元に 'Heroes' のマスターテープがやってきた時、それはハイエンドデジタルに変換済み(*1)でした。
というのもテープは古く(聴き取れない)で磁性体は摩耗し、それ以上再生し続けることは無理だったからです。
テープはデジタルに変換されましたが、それはとても素晴らしい(聴き取れない)で音はとてもよく聞こえました。
私の耳には(オリジナルの)テープと遜色ありませんでしたね。

(*1) ヴィスコンティは 'Heroes' 収録の同名アルバムのプロデューサーですので、当然アナログマスターは手元にないとおかしな話です。
     わざわざ「手元にきた」とってるのは、CD化の時のデジタルリマスターには関わらなかったこと指すのでしょう。
     ここでの「ハイエンドデジタル」が
      - Rykodisc 時代の 1990 年リマスター(20bit)
      - EMI 時代の 1999〜2003 年リマスター(24bit)
     どちらを指すかは不明ですが、ヴィスコンティとボウイがアルバム"Heathen"で再び組むのが2003年ですから
     後者と考えるのが自然ですかね。

@ 5人によるセッションからはじまった

どの曲もなんですが、この'Heroes'も伴奏から(録音を)開始しました。
この頃、デヴィッド(・ボウイ)は最高のバンドと作業していました。

 - ベースのジョージ・マーレイ
 - ギターのカルロス・アロマー、彼とは"Young American"からはじまって30年(*2)のつきあいになります
 - そしてドラムのデニス・デイビス

この(録音の)時点でデヴィッドは彼らとはミュージシャンとして数年のつきあいで、ツアー(*3)に出ることにもなります。
それでは、ベーシックトラックを聴いてみましょう。

 - デニス・デイビスはドラムに座り
 - カルロスはギター持って部屋(*4)に
 - ジョージマーレイはベース
 - そしてピアノ(*5)を弾くのはデヴィッド・ボウイ
 - またスタジオの隅にブライアンイーノ、彼(イーノ)はブリーフケースシンセサイザー(*6)を演奏し美しく雄大なノイズ音を出します

曲はこの5人のミュージシャンたちのセッションで録音ははじまりました。
歌はありません、まだメロディもありませんでした、曲の形も構造もまだありません。
この曲を何て呼ぶかもまだ誰も判りませんでした、これがこの曲の始まりです。

(*2) この時点で30年では当然ありません(まだボウイ30歳にカルロス26歳ですし生まれてからずーっとになってしまいます)
     Young Americans(1975) 〜 Reality(2003) までおよそ30年という事です。

(*3) おそらく1978年からの Low & Heroes ツアーのことを指していると思われます
       https://en.wikipedia.org/wiki/Isolar_II_%E2%80%93_The_1978_World_Tour
     ちなみに Station To Station ツアーにもこの3人は参加しています。
       https://en.wikipedia.org/wiki/Isolar_%E2%80%93_1976_Tour

(*4) スタジオの中の防音室の事と思われます。
     各パートごとに演奏して録音を重ねるのではなく、全員で一発録りする場合には楽器の音が被らないよう
     パーテーションや防音室などを使います。普通はドラムが防音室に入ることが多いのですが(他の人はヘッドホンで
     ドラムの音を聴きながら演奏する)ここではギタリストがが防音室に入ってるという事は、フィードバック対策などの
     特別な理由があったかと推察されますが、それにしてはドラムトラックにもギターの音がかすかに被ってる事を
     わざわざ解説してるのでしてるので、防音室ではなくスタジオ全体を指してるだけかもしれません。

(*5) ピアノといってますが鍵盤程度の意味で、実際に弾いてるのはシンセサイザーでしょう。
     後のインタビューでその機材も出てきますので、次回説明します。

(*6) EMS Synthi AKSのこと、イーノはロキシー時代からアンビエント時代に至るまでEMS社のシンセを愛用しています。
       https://en.wikipedia.org/wiki/EMS_Synthi_AKS

@ サウンド解説(その1) - 後から音を変える必要なんてない

では早速ですがドラムトラックからはじめましょう、(OKアラン、再生よろしく)

 - はい、キックドラムです
 - スネアドラムです、後ろにカルロスのギターの音がちょっと聴こえてますね
 - そして頭上に立てられたシンバル用のマイク
 - またタムタムのトラックもあります
 - ドラムと一緒に(*7)
 - そしてジョージ・マーレイのベースも

彼(ジョージ・マーレイ)は特殊なエフェクターをベースにかけてます、フランジャーです(*8)。
ちょっと2番で止めて、ここに型破りなアプローチを見ることができます。
というのも普通のミュージシャンでなら
「テープには生音でエフェクト音を録らないで、だって後からエフェクトをオフにできないから」
というところです。

でもこれは(聴き取れない)意図してやってます、私たちはエフェクト音も一緒に録音します。
後から取り除けませんが、なぜ後から変える必要があるのでしょう。
ヴァイブ(揺らぎ、雰囲気)を作り出すその小さなモノ(*9), ヴァイブを作ったのだし変更できても無意味ですから。

この音が(聴き取れず)

この音です、私たちはこの(ベーシックトラックの)上に'Heroes'を組み上げていったのです。

(*7) おそらくカルロスのギターだけソロで流したシーンが一部カットされたのでしょう

(*8) 音をジュワーとジェット音のように変える強力なエフェクターです、原理はこのへん参考にしてください。
       http://www.hikari-ongaku.com/study/effc_etc.html
     位相系のエフェクターをベースに使用すると音が細くなりがちなのでであまり普通は使いませんが
     80年代に入るとベースをメロディ楽器的に使うバンドがフェイザーなんかをかけるケース増えてきます。

(*9) コンパクトエフェクターの形状から「小さなモノ」といってると思われます
     フランジャーは元々テープを使って実現するもので、機材もオープンリールを使ったりで
     コンパクトとは程遠かったのですが、70年代の頃には半導体や集積回路の発達の恩恵により
     小さなペダル型にまでダウンサイジングされていました。
     時期的には発売間もないElectro Harmonics社のMistressあるいはMXR社のM-117Rあたりでしょうかね。
     新しいオモチャがきたというスタジオの雰囲気が感じられます。
       http://www.kcmusic.jp/ehx/deluxe-electric-mistress.html
       http://www.jimdunlop.com/product/m117r-flanger

次回はブライアン・イーノとロバート・フリップの作業について。